2011年7月2日土曜日

1日目、夜、ホテルは見つけたが・・・ 『言葉の壁』

 特にユウの疲労が大きいようだ。無理も無い、双眼鏡の重量が今になってきいてきているのだろう。
「どうするね?ホテルの情報は持っていないのかい?」
一応確認のために声をかける。とりあえず黙り込む二人。
「仕方が無い、シンカフェまで戻ったらどうだ?」
私はそろそろ限界だと感じて助け舟を出した。
「えー、めちゃくちゃ遠いっすよ?」
口を尖らせるユウ。やはり自分の今いる場所を把握していないようだ。
「そこの路地入ってしばらく歩くとすぐだよ。ホッシーもかなりきつそうだから、とっとと宿に入ろう。」
本来ならばあまりしないことだが、彼らをホテルのある通りに誘導することにする。
 「ヨッシャァ!!じゃあ、ホテルについたら飯ですね?」
いきなり元気になる星原君。一応さっきも食べたと思うのだけど?
「ああ、あれは昼飯っス」
なるほど。
 「んじゃ、そこの路地だから。」
そう言って向かいのおもちゃ屋の隣の通りを指差す私。そこは有名なブイビエン通りである。この通りを真っ直ぐ進むと、先ほどのシン・カフェのあるデタム通りにぶつかるわけだ。飯と聞いて急に元気になった星原君が、『やっと飯が食える』と言わんばかりの顔になる。果たしてそう簡単にいくかね?
 路地を入ると、いくらか薄暗い通り。しかし先の方にはにぎやかな店が軒を連ねているのが見える。
 そしてひときわネオンのまぶしいホテルを見つけたユウ。疲労もあってかとりあえず入って見ることにした。
以下はユウとスタッフの英会話だ。
『すみません?ここで泊まる事ってできますか?』
『こちらはツアーデスクになっております。』
『ツアーですか?ホテルに泊まりたいのだけど?』
『ホテルのフロントは上の階になっております。』
 確かに上の階にもホテルのフロントらしき場所がある。
 そしてスタッフの言う通り、ユウが話をしているのはツアーデスクのようだ。写真にもそう書いてある。
数分会話をするユウであったが・・
「なんかここ、ツアー客専用のホテルみたいで俺ら泊まれないみたいです。しょうがないから別のところに行きましょう」
何をどう勘違いしてこんなことになったのだろうか?
「おいユウ、あの人が言ってるのはな・・・」
そこまで言いかける星原君の肩をたたき私は首を横に振る。『手出し無用』である。
「ちょ、マジかよ!!」
もう勘弁してくれと言う顔の星原君。残念だがこれが彼等の能力の限界と言うことだ。無事にホテルが取れたら種明かしはするが、それは今ではないのだよ。
「なかなかうまくいかないもんだなー」
頭をかくマサシ。
「しょうがないよ、まぁこの辺はホテル多そうだからいいんじゃん?」
お気楽な様子のユウ。確かにこのあたりには大小たくさんのホテルがある。この先いくらでもホテルは見つかるだろう。しかし根本的な問題があるのだが。
 さらに進むと、外国人観光客でにぎわってきた。実は屋台も多く出ていて、不思議と足取りも軽くなる。
絵を売っているお土産物屋もある。帰りに時間があったらこの辺りで買い物をしてもよいだろう。
 「うーし、次はあそこだ。」
ユウがまた別のホテルに目をつけた。このあたりはホテルがひしめいているので、総当たり戦でいけばいつかは泊まれるホテルがあるだろうという気分が、今の彼らを気楽にしているように思える。もちろんこれで宿が取れなかったらさすがに私としても想定外だ。非常に面白いことになるだろう。
 ユウが目をつけたホテル。なかなかにこぎれいである。下にあるのはタトゥーとピアスの店。さすがに今回は間違えなかったようだ。
 階段を上る二人。少し足にきているかな?
 ホテルのスタッフに部屋の空きと値段を聞くユウ。
 ここからバスツアーの申し込みもできるようだ。
 日本語が使えるかどうかはわからないが、インターネットも完備しているらしい。ロビーのコンピュータも使えるが無線LANによるインターネットも可能だ。
 部屋を見せてもらえるように交渉するユウ。このあたりの予習はばっちりのようだ。
 エレベーターに乗って部屋を見に行ったユウとマサシ。
「結構いい部屋でしたよ」
上機嫌でユウが戻ってきた。
「おお、値段は聞いた?」
私の予想ではここは一泊25ドル以上するはずだ。
「安い部屋は20ドルです。ただ、一部屋しか空いてないそうです」
ここで私は意地悪く聞いてみた。
「それで?どうするんだ?」
「俺ら安い部屋泊まるんで」
とユウ。
「先生たち高い部屋でお願いします」
と続けるマサシ。
値段を聞くと高い方でも30ドルとの事だ。まぁいいだろう。このくらいの図太さが無ければこの先やっていけまい。しかし、彼らはまだもう一つ大きな問題を抱えていると言うことを忘れているようだった。

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